2023.06.25

元麻布2丁目崖下の裏道

 港区元麻布2丁目に小さな交差点があります。交差点には大きな門が面し奥に道が続いてマンション「元麻布テラス」に通じています。
しかしその門柱の陰に、よくみると幅1mにも満たないような裏道の入口があり、奥へと続いています。
20230624-125
元麻布テラスの入口と裏道への入口

 この道と元麻布テラスの敷地は約3mの高低差があり、この道は元麻布テラスの高い擁壁の下を沿うように続きます。道はしばらくは面する出入口もなく、ひたすら左側のコンクリートの壁と右側のフェンスに囲まれたまま続きます。やがて道はつきあたると右に曲がり、民家の軒先を通るようにして一般の道に出ます。延長約80m。
P5063026
左は元麻布テラスのコンクリート擁壁

P5063029
約80mにわたり幅約1mの道が続く

P5063032
やがてフェンスはなくなり、民家に直接面するようになる

 この奇妙な道は、地形的にみると谷底を通っており、実は谷の奥にある「がま池」から湧いた水が流れる水路なのです。水系の面からのこの道についての説明はこちらのサイトを御覧ください「東京の水 2005 Revisited 2015 Remaster Edition」。
20230623-214950
百軒店の位置(国土地理院「地理院地図」 標準地図と陰影起伏図・色別標高図を加工)

 このように狭い道ですが、ときおり人とすれ違うこともあります。決して無用なスペースでなく、地元の住民にとっては大切な通り道のようです。
 この道をでた先は宮村児童遊園の付近です。この一帯は築100年近い老朽木造低層建築物が並ぶ一帯ですが、それはまた別の機会に紹介しましょう。【吉】


Hidden Backstreet in Motoazabu, Tokyo

20230623-2149

There is a small intersection in Motoazabu, Minato-ku ,Tokyo. At the intersection, there is a gate and a road leading to the condominium "Motoazabu Terrace".
If you look closely behind the gateposts, you will find an entrance to a road that is less than one meter wide.

There is a difference in elevation of approximately 3 meters between this road and the Motoazabu Terrace site, and the road continues along the bottom of the high wall of the Motoazabu Terrace. For a while, the road is surrounded by a concrete wall on the left and a fence on the right, with no entrances or exits. Eventually, the path turns right at the end of the road, passing through between the houses to reach an ordinary road.

Topographically speaking, this strange path runs through the bottom of the small valley, and is actually a waterway through which water flows from the "Gama -Ike Pond" at the top of the valley.

6月 25, 2023 ■港区 |

2023.05.15

渋谷百軒店 裏の路地

 道玄坂を少し上るとその右手に小高い丘があり、その上に「百軒店(ひゃっけんだな)」があります。
 百軒店は街区が「日」の字の形をしており、周囲の比較的ランダムな道筋と様子が違うのは、ここが歓楽街としていちどきに開発されたためです。

Mapj
百軒店の位置(国土地理院「地理院地図」 標準地図と陰影起伏図を加工)

 渋谷百軒店は関東大震災後堤康次郎の箱根土地株式会社が中川久任伯爵邸の跡地に開発した歓楽街で、被災した銀座や浅草の店舗が移転し開発直後は大きな賑わいを見せていました。

「渋谷道玄坂の百軒店は箱根土地株式会社の経営である。…会社は此の三千四百坪の地所に
△事務所一棟店舗百十七軒△稲荷神社社殿、神楽殿、社務所各一棟△劇場聚楽座一棟△仮設観物場、音楽堂各一棟△派出所及消防所各一棟△花壇及貯水池各一ケ所
等数種の建物を建設した。併し此の土地は会社の所有地ではない。此の土地は中川(久任)伯爵の所有土地である。中川伯爵の所有土地を箱根土地が仲介者となって分譲したものである。」
(実業之世界社「実業の世界 八月大活動號」1924.8)
「震火災の為に銀座が焦土になり、浅草が焦土になり、その銀座浅草が気を揃えて渋谷に引越した格好となったのである、そこへ先頃百軒店なるものが出来た、宛然常設博覧会とでも云ふべき軒並で、食ふものには精養軒があり弁松があり、うなぎの竹葉天麩羅の大新鮨の与兵衛もあり、諸国の名産も大分揃うて、こゝへ来れば日用品も贅沢物も、大抵の買物が出来る、千代田稲荷が表看板で、その前には聚楽座といふ劇場もあり、…何にしろ賑やかな所が出来たもので、」
(大日本藝術協會「藝術」1924.5)

1925
東京交通社「大日本職業別明細図之内 渋谷町」1925に見る百軒店。「聚楽座」「演舞場」「渋谷キネマ」などの娯楽施設がみえる。道玄坂の入り口には被災地から避難してきた資生堂が。千代田稲荷の位置が現在と違うように見える。

 しかし被災地が復興すると店舗は元の場所に戻っていき、百軒店の賑わいも長くは続かなかったということです。50年代のエッセイには映画館が数件あるほかは「極めて閑寂な街」になってしまったと記されています。
 70年代にはこれらの映画館もボーリング場を経るなどして最終的にはマンションになり、繁華街としての性質は薄れてしまいました。

「道玄坂をのぼり切って右へだらだらと登ると戦前までは非常な繁栄をしていた『百軒店』があるが、戦後は全くさびれて、飲食店もまばらに、テアトル・渋谷、テアトル・ハイツ、S・Sの映画館が、わずかに好映家の足をとどめる程度で、極めて閑寂な街になってしまった。」(足立直郎「鍵穴えん筆」朋文社 1957)

1965
住宅協会「商工住宅名鑑 渋谷区」1965。映画館テアトル渋谷、テアトルハイツ、テアトルS・Sの名が見える。現在はそれぞれライオンズマンション道玄坂、サンモール道玄坂等になっている。

 この百軒店の「日」の字と道玄坂の間に、ほぼ店もなく人通りの少ない裏道があります。
 この道は百軒店の丘の縁の崖に沿って道玄坂と並行して延びる約80mの区間で、崖の高低差は約5mあります。

Photo_20230514105601
入口

P5029849
奥へ進むと…

P5029852
左の道玄坂側は崖


 この道には主に百軒店に並ぶ店や道玄坂沿いの建物の裏口ばかりが並んでいますが、一軒だけ「とりかつ」という店が表口を向けています。いろいろな揚げ物の定食を安く提供する店で、このサイト(はらへり「渋谷・道玄坂の老舗「とりかつチキン」を取材!おすすめメニューも紹介」)の取材によれば1977年から営業しているようです。裏道でこのように長く営業できているのは価格の安さと揚げ物の腹ごたえにあるのかもしれません。

20230514-104226
「とりかつ」。この通りに面する唯一の店。

 

 繁華な街の一画にこのようなうら寂しい場所を見つけることには、街の秘密を発見したような面白さがあります。【吉】


Off Street in Hyakkendana, Shibuya, Tokyo

Mape

In the midst of thriving city of Shibuya in Tokyo, there is a backstreet with few people and few stores. It is on the edge of "Hyakkendana", an area on the small hill at the side of Dogenzaka street, one of the main streets in Shibuya.
This backstreet mainly faces the rear entrances of buildings around, but there's only one shop along the backstreet. "Torikatsu" is an inexpensive chicken cutlet shop, since 1977.
It is surprising to find a lonely place like this in the middle of entertainment district.

5月 15, 2023 ■渋谷区 |

2022.12.18

誰にも見えない巨大標語

 渋谷駅を降り、マークシティの横を入ったパチンコ屋の多い街を歩いていると、このように渋谷警察署と渋谷消防署の大きな標語が見える。
Pa259510s

Pa259518s

 近づいてもなかなか標語の全貌は見えない。ためしに道玄坂に出てみるとかえって全く見えない状況だ。この標語を見ようとすればこの道か、あるいはマークシティ内のオフィスから見るしかないようだ。GoogleMapで上空から見るとこのような状況だ。誰にも見えない場所にどでかい標語を表示する違和感。

20221218-115138


 ところで文字がかすれているのが気にかかる。「やさしさと思いやりのある運転を 渋谷警察署」「あとでより いまが大切 火の始末 渋谷消防署」の字は、よく見れば色があせて灰色になっているように見える。また標語がとりつけられている波板には雨が流れた汚れがついているではないか。
 試しにこの標語で検索をしてみると、あった。「あとでより いまが大切 火の始末」は1984年の全国統一防火標語、「やさしさと思いやりのある運転を 渋谷警察署」は1986年春の交通安全運動のスローガンだったのだ。80年代? 40年近く前?(日本損害保険協会「過去の全国統一防火標語」
 この建物新大宗ビル4号館の築年はすぐにはわからなかったが、隣の3号館の築年は1975年。4号館が建築されたのはその数年後とすれば、80年代に建築されたこのビルに渋谷駅前や道玄坂から目立つように標語を表示したが、その後周囲に建物が林立し周囲から見えなくなってしまったので、ある時点から更新もされずそのままになっているという経緯が想像できる。

なおこの標語の命も長くはない。現在この建物を含む新大宗ビル一帯では再開発事業が進行中だ。竣工は2026年。(渋谷文化「新たな再開発エリアの注目は『道玄坂』 新大宗ビル建て替えへ」

Pa259531s
付近には「長崎飯店」や「長岩病院」など古い建物や店舗が残る周囲とは微妙に違った雰囲気の場所だ。【吉】

Pa259548s

Pa259558s

 

12月 18, 2022 ■渋谷区 |