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1998.06.10

「おはなしのくに」の独特な世界

 「おはなしのくに」は独特である。
 幻想的な照明やセット、不思議な響きをもつ登場人物たちの名前。しかし、なんといっても独特なのは、個性の強いナレーター陣だ。

 ナレーターを演じるタレントは、おおまかにいって3つのパターンがある。
 1つは舞台の人。「宝塚」出身の涼風真世や「劇団四季」出身の市村正親、「劇団民藝」の日色ともゑ、樫山文枝など。
 1つは小劇場の人。元「自由劇場」の笹野高史、「東京乾電池」のベンガルなど。
 1つはアイドル崩れの人。高見知佳や川上麻衣子など、現役アイドル時代は第一線にいたわけではないが、今も活躍している女性タレント。
 これらの他に、主にドラマで活躍する大和田獏、庄司永建や、演芸界からは団しん也、江戸家小猫などがいる。ドラマにも多く出演する日色や樫山もこちらに入れていいかもしれない。

 さて、問題なのは、「舞台の人」である。演技の勉強を積んでいるのだろうから、当然、活舌(かつぜつ)はいいし、語りにメリハリがある。
 しかし、見ていて、時々つらくなることがあるのだ。
 演技者と観客の距離が近すぎて息苦しくなるのである。平たく言えば演技が大きすぎる。舞台の演技とテレビの演技はやはり違うのだと思う。演技の基本はいずれも同じだろうが、数百人から果ては1000人を越えるキャパシティの劇場の舞台で発する台詞と、6畳のお茶の間(最近は10畳やそこらのリビングルームも少なくないようだけど、自慢じゃないが私なんか本棚やらパソコンやらがごちゃごちゃになっている5畳足らずの狭苦しい部屋で見てるんだぜ)で見ている視聴者へ向かって発する台詞は、おのずと違うものになるはずだ。

 「アイドル崩れの人」や、ドラマやお笑いの世界で活躍するタレントは、まだいい。テレビのスケールに慣れているためだろう、見ていてもそれほど違和感を感じることはない(演技の巧拙はまた別にして!)。「小劇場の人」ベンガルは、ドラマやバラエティでも活躍しているせいか、語り口に無理がない。ただし、笹野高史は「小劇場の人」ではあるが、かなり大きな劇場へも出演していることもあり、少々オーバー気味の演技であるが(というよりも、どちらかというとオーバー気味な演技が笹野の持ち味なので、これは劇場のサイズ云々ではなく、彼の個性というべきか)。

 ともあれ、「舞台の人」がナレーターを務める日は、15分の間、視聴者は異次元に迷い込むことになる。
 無国籍風なコスチュームに身を包んだ語り部が、遠い異国の耳慣れない名前を呼ぶ。身をよじり不運を嘆く。頭を抱えて苦悩する。両手を広げて歓喜にむせぶ。

 ナレーターよ、私はここだ。
 貴方の目の前に座っている。そして部屋は5畳弱だ。私の座っている椅子の真後ろはもう壁だ。ここは帝国劇場ではないし日生劇場でもセゾン劇場でもない。ましてや宝塚大劇場でもないのだ。腹の底から声を出すのは結構だが、もう少し演技のスケールを狭くしてもらえないものか。大きな劇場におけるリアルとテレビの画面から伝えるリアルは違うとは思わないか?

 そんなことを考えながらも、私は画面から目を離せない。テレビの小さな画面の中で、やたらと大きな身振り手振りで、「王様ァァッ」とか「おおゥ、神よッ」などと叫ぶ「舞台の人」が醸し出す奇妙な違和感。わずか15分の異次元旅行。これが意外と快感だったりする。

 ちょっとした異次元への旅を体験したい方には、ぜひおすすめしたい「おはなしのくに」。放送時間は、火曜9:00〜15、金曜10:15〜30である。当然、おすすめは、「舞台の人」がナレーターを務める日だ。幸い、今週から再来週にかけて放送される「パンチャタントラ」は、ナレーターが市村正親なので、まずはこれからチャレンジしてはいかがだろう。【み】

1998 06 10 08:18 AM [学校放送] | 固定リンク

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