1940年代インチキ少年伝道師の濃厚人生
ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルでアメリカやブラジルで活躍する子供伝道師が紹介されていた。同番組ではミシシッピ州の4歳の伝道師キャノン・ティプトン、6歳から伝道を続けるフロリダ州のテリー・ダーハム(14)、やはり6歳から伝道師として活躍するリオデジャネイロのマテウス・モラエス(14)が紹介されていたが、世界にはその他にも多くの子供伝道師がいるようで、(The Smoking Jacket:記事に多少悪意あり)同番組では未成年への搾取という批判もあることが紹介されていた。
その中で私の興味をひいたのが、1940年代に活躍した少年伝道師、マージョ・ゴートナーだ。
マージョ・ゴートナーは1944年カリフォルニア州ロングビーチに生まれた。出産時にへその緒がからんで生まれてきた彼を産科医は「生きているのが奇跡だ」と言ったという。牧師の父と母は彼をマリアとヨゼフ(ジョセフ)にちなみ、「マージョ」と名付けた。
マージョは「パパ」や「ママ」という言葉をしゃべる前にまず「ハレルヤ!」という言葉を覚えた。9ヶ月の頃には説教することを覚え、4歳の時には正教師に叙任され、「史上最年少の正教師」として結婚式を執り行った。その後アメリカ中で伝道集会を開いてまわり、集会には神の言葉を伝える「奇跡の子供」をひと目見ようと熱狂的な聴衆が集まった。彼の完璧に計算されたポーズと身振り、「ハレルヤ」と「アーメン」の言葉をはさむ絶妙のタイミング、そして時折起こす奇跡的な治療に、教会の献金皿が満たされないことはほとんどなかったという。
しかし彼が16歳になった時、突然転機が訪れた。父親がそれまでに稼いだ金3百万ドルを持ったまま姿をくらませたのだ。失意のマージョは母の元を去り、単身カリフォルニアにわたってそこで出会った年上の女性と恋愛関係になった。以後10代の後半から20代の前半にかけて、彼はヒッピーとして暮らすことになったという。
金に困り、子供時代に培った自分の才能を役者か歌手として活かしたいと考えていたマージョのもとに、ドキュメンタリー映画作家のハワー・スミスとサラ・カナハンが接触をしてきた。彼らの依頼をうけ、1971年彼はカリフォルニア、テキサス、ミシガン州と再び伝道ツアーに出発し、それを映像として記録に残させた。ただ以前の伝道と異なったのは、説教の間のインタビューで自分や他の伝道者がどのように聴衆を操作しているか詳しく解説をし、集会後ホテルの部屋で稼いだ金を数える様子まで撮影させたことだ。彼はすべてをぶちまけたのだ。
入浴中に神からの幻視を受けたというのは親から強いられた嘘だったこと。両親は彼に聖書の言葉を教えると同時に、集会で「聖なる」物品を売りつけ金を儲けるための戦略も教え込んだこと。両親の言うことを聞かない時には、あざが残ることを恐れた両親は殴ることはせず、水責めを使ったこと。奇跡的な治療は、治療を施した自分にとっても奇跡だったこと。このドキュメンタリー映画「マージョ」は1972年アカデミー賞ベストドキュメンタリー賞を受賞した。
その後ゴートナーは映画界と音楽産業に参入しようと努めた。コロンビア・レコードからLP「バッド・バット・ノット・イヴィル"Bad, but not Evil"」を出したが売上は奮わなかった。しかし映画界で彼は一定の成功を収めることとなる。1973年には「刑事コジャック」のパイロット版「マーカス・ネルソン殺人事件"The Marcus-Nelson Murders"」に出演、翌年にはアカデミー賞受賞作「大地震」に悪役ジョディ・ジョード軍曹役で出演した。その後「美女と無法者」(1976)、「メイデイ40000フィート」(1976)、「巨大生物の島」(1976)、「スタークラッシュ」(1978)、「拷問!美女軍団の復讐」(1982)、「悪魔の封印」(1983)、「暴走サバイバー」(1987)、「レッド・コブラ」(1990)等の主にB級映画に出演、B級映画マニアにはある程度名前の知られた存在となった。彼は「ワイルド・ビル」(1995)を最後に役者としてのキャリアを終えるが、最後の配役は伝道師だったという。
役者を辞めた彼は2009年まで慈善のため有名人のゴルフトーナメントやスキーイベントを開催していたが、2010年にはそれらのイベントからも手を引いている。
2007年には劇作家のブライアン・オズボーンが彼の人生を題材にした一人劇「The Word」を著した。これはその後何回か舞台にかけられ、2012年にはオースチン、シカゴ、ミネアポリスで上映予定だという。また2008年にはメルボルン・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティバルでB級映画俳優としてのマージョ・ガートナー出演作の上映が行われたという。
以上大部分をWikipediaに基づいているため話が全て真実であるとはいいきれないが、彼の幼少時の説教の動画以上に、興味深い人生を彼は歩んできたようだ。【吉】
<参考サイト>
◆Marjoe Gortner(Wikipedia)
◆Marjoe Gortner(Positive Antheism)
◆マージョ・ゴートナー(海外映画俳優マガジン)