ネパールの希少言語「クスンダ語」を話す最後の一人
ネパール西部に住む女性、Gyani Maiya Senさん(75)はクスンダ語を流暢に話す最後の一人だ。起源が不明で謎めいた構文をもつクスンダ語は言語学者を長らく悩ませてきた。ネパールのトリブバン大学の言語学者Madhav Prasad Pokharelさんは10年ほど絶滅しつつあるクスンダ族について研究してきた。Pokharelさんはクスンダ語を「孤立した言語」と呼んでいる。世界中の他の言語と関連性がないからだ。「世界には約20の語族があります。」「インド・ヨーロッパ語族、シナ・チベット語族、オーストロアジア語族などです。」「クスンダ語は音韻の面でも、形態学的にも、構文の面でも、語彙の面でも世界中の他の言語との関連がみられないという点で際立っています。」
Pokharelさんは、もしクスンダ語が絶滅すれば「人類の遺産のユニークで重要な部分が永遠に失われることになります。」という。Senさんは、もしこの言語を守ろうという高邁で知的な論議がなくなれば、Senさん個人にも影響があることを痛いほどわかっている。「幸い私はネパール語も話せますが、自分の部族の者と自分たちの言葉で話せないのはとても寂しいことです。」「クスンダ族で生きている者はまだいますが、クスンダ語を知らなかったり話せない者ばかりです。」「クスンダ族の他の者は、クスンダの単語をいくつか話せますが、コミュニケーションができるわけではありません。」 Senさんは自分の死後クスンダ語を話す者がいなくなることを恐れている。「クスンダ語は私といっしょに死ぬんです。」 彼女は政府や学者がクスンダ語を次の世代に伝える手助けをしなかったことを嘆いている。詳細な数字はわからないが、ネパールの中央統計局によれば約100人のクスンダ族が生存しているという。だがクスンダ語を流暢に話すのはSenさんだけだ。
2、3年前まではクスンダ語が話せる者がもう2人いた。Puni Thakuriさんと娘のKamala Khatriさんだ。しかしThakuriさんの死後、Khatriさんは職を求めてネパールを去った。Senさんは高齢だが石割りの仕事をして生計をたてている。しかし職場を離れるとクスンダ語を学ぼうという学生たちが彼女を待ちわびている。彼らはこの希少な言語を記録しようとしているのだ。研究者たちはこれまで3つの母音と15の子音を確認している。
クスンダ族は遊牧民族であり、森の小屋で弓矢による狩猟や採集で生活をしている。男性が狩猟をし、女性や子供は木の実を採取する。小柄でがっしりした彼らは自分たちをクスンダ語で「ミアック」と呼ぶ。オオトカゲの「プイ」や野生の鳥「タップ」を獲物とする。言語学者や部族の運動家は政府にクスンダ族の地位を向上し、言語を守る計画の導入を求めているが、近い将来には実現しそうにないという。「クスンダ語を保存するための具体的な計画は何もありません。」 文化省の広報官、Narayan Regmiさんは認める。国立民族博物館がクスンダ族を含む10の部族について研究を進めているのみだという。(BBC News)【吉】
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