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2002年8月

2002.08.14

渋谷区役所前地下駐車場進入路建設問題

地図 公園通りを上り、東武ホテルを過ぎたあたりに渋谷ホームズというマンションがある。その通りに面した植え込みの中に大きな掲示板状のものが立てられている。
 アクリル板に活字が記されたそれは、周囲の風景にとけ込み一見それとはわからないが、文面を読むと繁華な公園通りの風景とは全く異質な怨嗟に満ちた内容であることがわかる。建設現場の周囲などに、怒りを込めて殴り書きされた建設反対の看板が立てられているのを目にするが、この渋谷ホームズ前の看板もそれと同質のものなのだ。

 

 この看板の向かいに地下駐車場の公園通り入口がある。実は看板はこの地下駐車場入口をめぐる区と渋谷ホームズ住民との数年間に亘る争いの結果なのだ。

 

渋谷区役所前地下駐車場 1993年、渋谷都市整備公社は渋谷区役所地下に地下二層、780台を収容する駐車場を開業させた。しかし稼働率は17%と低迷し、平成12年末には公社の累積赤字は57億円に達した。
 公社はこの稼働率の低さを「入口のわかりにくさの為」とし、公園通りに入口を新設しようとした。

 

 これに対し、正面に入口が建設されることになる渋谷ホームズ住民をはじめ地元住民が反発、「公園通りの生活と環境を守る会」を結成した。そして日本共産党、区政を聞く住民会議、無党派クラブの区議、渡辺淳一、宮本信子、永六輔、小室等、海江田万里、中村敦夫らの著名人がこれに賛同した。
 渋谷ホームズ住民にしてみれば、1972年の区画整理で区側に1000㎡の土地を提供し、1986年からの公園通りカラー舗装化にあたっても1800万円の負担をするなどこれまで区側に多大な協力してきた経緯があり、にもかかわらず前面に住環境を損なう恐れのある駐車場入口をつくるのは区側の裏切りである、という気持ちがあったようである。

 

 反対派の主張は主に
・約10億円の工事費と駐車場の累積する赤字が将来区民の負担となる。
・車道を削って進入路をつくるため、渋滞はなくなるどころか一層ひどくなる。
・歩道も狭めるので災害時の避難路が確保できない。
・公園通りの景観の保全
という点であった。

 

 2000年5月、反対派は工事差止請求訴訟を起こす。工事は6月に着工するも住民側の抵抗で一時中断、区側は東京地裁に工事妨害禁止の仮処分を申請して対抗、仮処分の決定を受け9月から工事が再開される。反対派はさらに住民投票に持ち込もうとするも、2001年5月の議会では住民投票の条例化を否決されてしまう。反対派と行政側の攻防は激しさを増し、この間の2000年11月には区長宛の抗議の遺書を残して、「公園通りの生活と環境を守る会」代表の森啓氏(73)が 自室ベランダで抗議の自殺をするまでに至る。 以下は遺書の抜粋。

 

遺   書
小倉区長殿
公園通りの生活と環境を守る会 森 啓

区役所前地下駐車場の公園通り入口建設の強行に憤りを感じています。
あなたは、昨年末に実施した、90億円の借換で後は大丈夫と安心しているようですが、私たちは10年後には再び区は社債を買うようになります。その時には累損は100億円を超過する。区の企画部長は公共事業だから多少のリスクはいたしかたないと言っているが多少のリスクとは何億円位なんですか。区民に対して明確にして下さい。こんな財政の解らない区長も幹部もみんな区民の敵なんです。
区長!あなたの政治とは一体何なんですか? 首長としての権力の行使だけなんですか?
予算をいっぱいとって街中を箱物で埋めることなんでしょうか あなたの政治には渋谷の将来の夢がない 「基本理念」を作っても、やってることは逆だあなたの政治には、愛のひとかけらもない
私は、こんな区長を持ったことが悲しい
国会がそうなら区会も同様、みんなダンゴになって私利、私欲で与党になっている
私は、公園通りの散策路をこよなく愛していた。この公園通りが駐車場経営の失敗の単なる犠牲にされることなど許されるものではない。
私はいまここに残り数年の生命と魂を凝縮して区長にぶつける。
区長に対する抗議を以て生命を絶つ
平成12年11月5日

 

 これに対し小倉渋谷区長は哀悼の意を表すものの、「(入口建設は)一貫して正規の手続きを踏み、区議会や商店会とも協議して慎重に進めてきた」とのコメントを発表し、入口建設の方針に変更はないことを表明した。

 

 住民のエゴか行政の横暴か。いずれにせよ現在入口は完成してしまった。しかし渋谷ホームズ前の看板には、森啓氏の遺書とともに入口建設の問題点、そして区役所側に荷担した区議、住民側についた区議の名前が記され、住民の怒りを訴え続けている。
 以下は看板の文面。

 

小倉区長に抗議し憤死された森啓氏の一周忌にあたり、哀悼の意を深め。個人の遺書(抜粋)を掲示します。

遺書(略)

第三セクター渋谷都市整備公社は
 ・当初経営改善、最近は違法駐車・渋滞解消と称し、公園通りの駐車場入口増設を強行する小倉区長と桑原助役。
 ・累積赤字六十四万円(本年三月末現在)にふくらみ、三年後の公社は、債務超過経営破綻は必至。
 ・渋谷区は公社に出資金六十億円、社債引受四十七億円合計一〇七億円もの我々の血税投入。
 ・更に渋谷区は公社が富士銀行からの借金一〇〇億円の保証人になっている。
  破綻の時には最悪一〇〇億円+三十億円(利息)を血税で負担しなければならない。
  この可能性はきわめて大きい。


入口増設可否の住民投票条例制定について
×住民の意思を無視して否決した区議
 渋谷区議会自由民主市民議員団
   岡本 浩一  近藤  繁  丸山 高司  高根沢節子  松岡 定俊  大木 成介
   伊藤 毅志  石田 詔夫  木村 正義  小林千代美  斎藤 一夫  染谷 賢治
   坂本勝央(議長のため採決にくわわらず)
 渋谷区議会公明党
   植野  修  伊藤美代子  山本 文雄  広瀬  誠  古川斗記男  佐藤  晟
 社会区民連合
   座光寺幸男  須永 節子  塩野 兼吉  吉野 和子
 民主党渋谷区議会議員団
   鈴木 清昭  岡野 雄太  芦沢 一明
 真自由政経フォーラム
   金井 義忠  薬丸 義朗
 明日を形にする会
   小林 崇央
○住民の意思を尊重して可決に賛同した区議
 日本共産党渋谷区議会議員団
   菅野  茂  新保久美子  五十嵐千代子 苫  孝二  森治  樹  三橋 勝郎
 区政を開く住民会議
   水原 利朗  東  敦子
 無党派クラブ
   平田 昭広

 

▼参考資料
区政を開く住民会議
山本信ホームページ(日本共産党元都議)
毎日新聞「抗議自殺:地下駐車場の入り口増設に反対する市民団体代表」2000.11.6
スポーツニッポン「区長に遺書残し…抗議の自殺」2000.11.7

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