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2002.10.08

胡蝶の夢

 M氏は建築設計に携わる壮年の男性である。彼は妻、二人の愛娘と東京近郊の一戸建てでつつがなく暮らし、広い庭で大型犬を飼う程度に生活にも余裕があった。都心までの通勤は相応の時間がかかるが、始発駅なので座って一寝入りできるので苦にはならなかった。

 その日M氏は自宅で大型犬の「アイちゃん」の世話をしていた。体を洗われるのが嫌いなアイちゃんはすでにかなり臭くなっていた、家族に言われたこともあり、今日こそはという決意で犬洗いに臨んだM氏であった。しかしその日はいつにも増してアイちゃんは抵抗した。必死に捕まえようとするM氏、逃げようとするアイちゃん。あまりの抵抗に業を煮やしたM氏はつい大きな声を出した。「アイちゃん!!」。

 そこで目が覚めた。そこは毎朝通勤に使う総武線の中。ボックスシートの向かいの人が驚いた顔でこちらを見ている。気がつけば、電車中から視線が自分に向かっていのるが感じられるではないか。そう、彼は通勤の電車の中で寝ながら大声で叫んでしまったらしいのだ。

 犬を洗っていた自分が夢か、それとも電車にのっている自分が夢か。後者であることを恐らく祈りながら、目的の駅に着くまでの数十分間、M氏がどんな地獄を味わったかは私は知らない。【吉】

10月 8, 2002 at 04:24 午前 ◆JR総武線 |

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