山王小路飲食店街(地獄谷)
JR大森駅西口には、池上通り沿いに延々と延びる商店街があるが、西口の北側、池上通りから数m下った谷底、池上通りと京浜東北線との間の幅約20mにすきまにこの飲食店街はある。
谷底に幅2.5mほどの道が約80m延び、その道の両側に焼鳥屋、居酒屋、小料理屋、スナック、バーが建ち並ぶ。池上通りとは両端と中程で階段でつながっているだけで外界からは隔絶された別世界だ。池上通りが坂になっているため階段の高低差は低い方では2m、高い方では7mほどもある。
■高い方の階段 高低差約7m。
飲食店会が設置した共同便所や背の低い街路灯が小さく完結した異世界を演出している。
■共同便所 「ここは公衆トイレではありません」と、あくまで飲食客用であることを強調している。
なお「地獄谷」という呼び名で呼ばれることもあるが、この呼び名の出典はよくわからない。個人的には2010年頃からこの呼び名を耳にするようになったが、いまだに地獄谷と記した地図も、文献も目にしたことがない。
2024.4.29追記①:山王小路飲食店街の開発
2024年2月、東京都により「補助線街路第28号線(大森駅)」及び「大森駅西口広場」が事業認可された。
これは大森駅前の池上通り約530mの区間を京浜東北線側に拡幅し、デッキをかけ西口広場をつくろうとするものである。山王小路飲食店街の階段部分は道路の拡幅部分にかかり、それ以外の部分も西口広場のデッキの下となり、少なくとも飲食店街は現在の姿のままではなくなることは確実である。
(出典:東京都・大田区「道路整備計画のあらまし」2022年9月)
2024.4.29追記②:1956年の大森駅・山王小路飲食店街付近との比較
以前鑑賞した映画「しあわせはどこに」(1956年、日活)で56年当時の大森駅から山王小路飲食店街にかけての様子が映っていた。当時の駅前はちょうど開業80周年にあたり、駅前に行灯などが並んでいる。
映画のくわしい内容はこちら(東京ポチ袋 映画の感想文「しあわせはどこに」)に譲るが、主人公芦川いづみを水商売に売り飛ばそうとする伯父殿山泰司の魔手から守るため、葉山良二が自分の下宿に芦川をかくまう。この葉山の下宿が現在の山王小路飲食店街の一画なのだ。この映画に映っていた当時の大森の町並みと現在を比較してみよう。
①山王小路飲食店街入口
葉山良二の下宿はこの階段を下りた下にある。大家は階段横のタバコ屋の田中筆子。
1956年
2024年
②山王小路飲食店街入口階段下
葉山良二の下宿に向かう芦川いづみ。階段は現在の半分ほどの幅で、傾斜も急なようだ。
1956年
2024年
③大森駅前
駅前の店の並びをみると、左から書店、「たね屋」、「ビーコンコーヒー」「ジャーマンベーカリー」となっている。書店(町田書店)は現存しているが、たね屋より右側は「大森駅前ビル」になっている。
1956年
2024年
④八景天祖神社入口階段
池上通りをはさんで大森駅の向かい、八景天祖神社に向かう階段。
1956年
2024年
(2011.9.26作成 2019.5.3追記 2024.4.29追記)