広尾5丁目:木造低層ラビリンス
外苑西通り、広尾橋交差点から西に向かって広尾散歩通り(広尾商店街)が伸びている。都心ながらこじんまりとした店舗が密集し、飲食店が充実した活気ある商店街だ。
しかし商店街から北へ、聖心女子大学のある台地のふもとに向かって一歩入るとそこにはラビリンスともいうべき細街路が広がっている。
木造低層住宅の間を幅員が1、2mほどしかない道路がクランク状に伸びる。道を歩けば家々の窓が間近に迫り、窓が開けば住民と顔を合わせ気まずくなりそうな距離だ。人様の敷地にずかずかと入っていくような感覚。クランク状の角を曲がった先で住民とばったりはち合わせをして見とがめられるのではないか。どきどき。
この木造ダンジョンの随所に、2、3段の小規模な階段や井戸、トンネル状になった路地などがあり、空間に変化と魅力を添えている。
土地の所有関係を確認すると、この一画は大きく一筆の土地になっており、地区内にある上宮寺の所有となっている。この一画の建物は上宮寺に借地をして建てていることになる。また網の目のように走る道路は私道であり、それがこの場所が凡庸な町並みに規格化されずに残っている要因であるように思う。
この一画が形成された時期はいつか。明治16年参謀本部陸軍部測量部の1/5000地形図では一帯は畑の表示がされているが、明治42年の参謀本部陸地測量部1万分1地形図ではすでに現在と同じ範囲が市街化しており、広尾橋交差点には路面電車の停留所ができている。明治39年の東京電気鉄道外堀線信濃町~天現寺橋間の開業(聖心女子大学「聖心歳時記」)に伴い、急速に市街化が進んだものと思われる。【吉】