■文京区

2019.07.07

白山:斜面奥へ続く2つの特殊な私道階段

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■周辺の地形と2つの階段の位置(等高線は東京地形地図 ©2009-2015 gridscapes.net による)

【民家に続く細長い急階段】
 文京区白山、日立製作所の迎賓館「白山閣」から北へ続く台地の西側、臨済宗の寺院「是照院」の敷地に沿って急峻な階段が伸びている。約10mの高低差を結ぶこの幅1mほどの階段は、途中一箇所ある踊り場を経てまっすぐ丘の上の民家に続いている極めて細長い一本道だ。民家の窓からはさぞ絶景が望めるだろうと羨ましく思う一方で、毎日この階段を上り下りするのは辛かろういう気持ちにもなる。

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■急階段入口。奥に階段が見える。左は是照院。
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■急階段。是照院との間は高い塀で仕切られている。


【道路に突き出したL字の石段】
 そしてこの階段へ続く道の一本南に、もう一つの階段がある。ゆるやかに台地に向かう坂を上るとその末端に、民家の擁壁と擁壁の間をすり抜けるように約20段の石段がある。石段の下は一部道路敷に突き出したような特殊な形状をしている。この石段は踊り場を経て左に曲がり、やや狭くなってさらに数段続く。その先は民家の庭先のような空間が続き、立ち入るのがはばかられる雰囲気だ。

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■石段の正面から。登った先は垣で隣地と区切られている。
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■石段側面から。下部が道路敷に突き出したような特殊な形状。
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■踊り場から先、数段の石段と庭先のような空間。

【裏でつながる2つの階段】
 航空写真を見ると、この2つの階段は実は裏でつながっていることがわかる。L字石段の先に続いていた庭先のような空間を抜けると、実は最初の旧階段の上に出るようになっているのだ。
 この魅力のある2つの階段を利用するのは急階段の先にある民家とL字の石段の先にある民家、わずか8軒だ。なんと贅沢なことだろう。階段の上はこの8軒以外の人間がまず立ち入らないプライベート性の高い空間が広がっている。
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■2つの階段の位置関係。階段の先は赤く塗られた8軒の民家のプライベート的空間。

2019.05.19

小石川:重層する段差の路地

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 小石川の「こんにゃく閻魔」で知られる源覚寺の裏、マンション小石川ヒルズそばから入り上富坂教会あたりへ抜ける路地がある。延長約100m、幅員約2m。歩いていると入り口を見落としてしまうほど目立たない路地だが、そこには他の場所では体験できない独特で豊かな空間が広がっているのだ。

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【①微細な高低差の階段】
 路地に入ってすぐの場所にある階段。階段というには段差が浅く、階段の左半分はまったく段差がない斜路になっている。右半分は建替えに伴い拡幅されたようにみえる。だとすればこの部分はかつて幅員1mもなかったのだろうか。
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【②段差が重層する路地】
 石貼りの階段、コンクリートの斜路、アスファルトの斜路が並行する路地。アスファルトの部分は建替えに伴い拡幅された部分で、2005年の来訪時道はもっと細かった。
 石貼りの階段は奥でコンクリートの階段と重層し、融合し、絶妙な形状をつくりだしている。最奥部に見える階段の上には新しいコンクリートの階段が重ねて造られ、通行が危ぶまれるほど細くなっている。素材と段差がなすコンポジションの妙。

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※2005年の状況


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■重層する段差 年代も素材も異なる階段が重なり、溶け合う。

【③木造平屋前の路地】
 さらに奥にいくと道は木造平屋トタン屋根の建物の庭先のような場所となる。道の真ん中には物干し台に洗濯物が干され植え込みがある。あたかも過去に迷い込んだようなこの一画には、規格化された公道にはない私道の魅力が溢れている。
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■庭先的空間の奥にはまた階段が

 地図上では並行する2本の線でしかない細い路地。都市の主要な動線から外れたその奥には、地図では表現しきれないディテールが織りなす魅力が集積していた。

2018.05.01

大塚坂下町

 春日通りと護国寺の間、坂下通りと呼ばれる通りの一帯は谷になっている。かつて坂下通りに沿うように流れていた水窪川(東京の水 2005 Revisited)によって侵食されできた谷だ。
そしてこの谷と春日通り、護国寺の丘をつなぐようにいくつもの階段がある。図に赤く示したのが階段だ。
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このエリアの階段には特徴があって、緩い傾斜が長く続いているためか、階段がいくつかに分節されていることが多い。そして段と段の踊り場状の部分には何軒かの民家が面していて、踊り場状の部分はそこに面する民家のコミュニティスペースのような空間となっている。車も通らず安全なこの空間は近所の子供にとって格好の遊び場ではないだろうか。


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数段上ると平場がありその奥にも階段が見える。道幅は一定でなくそこここに出隅入隅が。

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L字に屈曲する階段。秘密が隠された隙間の空間に誘われているような期待感。

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黄色く塗られた小さな階段。坂の途中に繋がっているため最上段は形がいびつ。

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個人宅につながる階段。緩やかな傾斜と微妙な入り口のカーブが素敵。

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廃屋の横の緩やかな新しい階段とそれに続く古い石段。囲まれていて落ち着くこの空間にはベンチも置いてある。

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なぜか入り口が狭まっている階段。

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微妙に角度を変えながら重層する階段。

 そして中にはこんなエクストリームな階段も。まずは幅60cmの階段。道の入隅に隠れたような秘密の石段。
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 そして路地のつきあたりに扇状に広がった階段。階段の左右がさらに細い路地に続いており、中央は行き止まりになっている。
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 こんな民家もあった。家主の手によるものか、素朴な手作りのいろんな像が塀の上や玄関まわりに据えつけてある。
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猫と猿、犬?
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鷲?熊と般若、女性。
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全景。玄関前にあるのはビリケンらしい。
【吉】

2004.01.20

なくなる本郷4丁目の桜並木

 先日本郷を歩いていた時のこと。この界隈は街並みが古いため、妙に低い地下道とか、驚くほど高い擁壁とか、驚くほど細長い石段などがあったりする。今の設計基準から外れるような構造物がここそこにあって面白い。今ではバリアフリーという考え方があるため石段の街路なんて造ろうと思っても無理だろう。
 面白い一角を見つけた。住所で言えば本郷4丁目19だ。自動車の走る道路から石段のある細道が派生し、若干の高低差で並行してのびている。2つの道の間には桜の木が何本か。細道の先には急で長い石段。その急な石段を登ると、細道より高い位置に空地が広がっている。地形の微妙な高低差が感じられて面白い空間になっている。

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 ところがこのあたり一面に貼り紙や横断幕が貼ってある。読んでみると、空地にマンションが建設され、それに伴って4本の桜が切られてしまうらしい。
 どうやら桜が生えている場所と細道は、空地と一体で元区の所有地を払い下げた私有地らしいのだ。貼り紙や横断幕は桜の木の保存を訴えるものだった。
 また本来私が訪れる2日前に桜の伐採が計画されていたが、電線等が邪魔になったため延期となったらしい。

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 私有地である以上、所有者が土地をどう使おうが法律に触れない限り抗議する由縁はないと思っているので保存運動に参加するつもりはないが、桜同様この魅力的な空間がなくなってしまうことを嘆こう。【吉】

<追記>
2004.4.11、TBSの「噂の東京マガジン」でこの件が放送された。既に真ん中の2本の桜は切られてしまったが、住民は署名を知事に提出する意向のようだ。行政を一方的に悪者に仕立て上げるこの番組の姿勢は変わっていないが。

<追記2019.5.4>
 その後2005年9月、この場所には10階建のマンション、アーバンビュー本郷が建築された。